山を走ることを始めたということ
- 2019/11/14
- 20:11
:山登りに目覚める

山登りを始めたのは5年ほど前の初夏でした。
この頃、長い付き合いだった同世代の友人を癌で亡くしました。
痩せ細っていく彼を見るにつけ、それでも生きる希望を捨てなかった彼の闘病の過程を目の当たりにして彼が亡くなった時に「人はたとえ若くても死ぬんだ」という至極当たり前のことを痛感しました。
まだまだやりたかったことも多かっただろうと彼の無念さがなんだか身体にスーッと入ってきた・・・そんな感じがしたのを覚えています。
彼の分まで生きようとか、そんな大げさなことではなく、人はいつか死ぬ。だから今日一日を大切にしてやりたいことをやろうと強く思いました。
そんな折、自宅を整理していたら“お湯を沸かすセット”一式が出てきて・・・
昔にちょっとしたアウトドア体験をしたときに「お湯を沸かしてカップラーメンでも」なんて考えで購入していたガスボンベとバーナーでした。
この時は特に何の脈絡も無く「山に登って、お湯沸かして、珈琲飲んだら美味しいだろうなぁ」なんて思いがふと頭を過ぎり、さっそく次の週には幼少期から見て育った身近な丹沢に向かっていました。

しかし初登山は惨憺たる結果で日帰りが当然の山でも疲労しすぎて「今日中に帰れないかもしれない」恐怖に慄くのでありました。
疲労困憊で座っては休憩を繰り返していると、遥か年長の年配のご婦人に「あら~若いんだから頑張って!」なんて励まされる始末。
さすがにこの経験は頑張りたいのに頑張れない己の無力さに打ちひしがれました。

子供のころから見て育った丹沢。たしか遠足でも行った記憶のある丹沢。たかが丹沢でしょ?なんて舐めていたのは否定できません。
後に知った話では登山の愛好家たちには山登りについて「丹沢に始まり、丹沢に終わる」という標語まであるそうで、山登りの基本が丹沢にはあったようです。
こんな経験を機に普通ならデビュー戦でコテンパンにやられて「山なんてもう行かない」となるところですが、声掛けをしてくれたご年配のご婦人の涼しげな表情と自分の悲壮感にあまりのギャップを感じて「こうなったら楽勝で登れるようになってやる!」と息巻いて毎週のように丹沢へと足繁く通うようになりました。

低山に分類される丹沢を踏破することは容易いようにも思われますが、南北20km東西40kmに及ぶ丹沢山塊。ひと山登ってもさらにその先まで続いているとても深い山脈であり、色々な山容がミックスされていて何度登っても次々と山登りの“課題”が見つかる登山者にとっては予備校のような勉強の場でした。
:運命の場所、運命の出会い
ある程度の経験を積み歩き慣れてくると次に考え始めるのが南・中央・北と日本列島に横たわる日本アルプスへの羨望です。
アルプスを歩く登山者の発信する記事を尊敬と畏敬の念を込め拝読し、テントを担いで縦走する登山者はまさに神とでも言わんばかりの憧れで、いつかは自分も!と思い始めると、では実際にアルプスを歩くにはどうすれば・・・と、具体的な課題や目標が次々に現れるので尚更、山登りという行為に嵌ってしまったのでしょう。
結局、ネットで聞きかじった情報だけではどうにも全容はつかめません。やはりここは一度実際に行ってみてどう感じるか?という結論に。
向かった先は北アルプス入門に相応しい燕岳へ。

ここで見た景色は頭をハンマーでガツンと殴られたかのような衝撃で、見たことないもの、知らなかったこと、ちっぽけな自分という存在、圧倒的な大自然が人間の大凡たどり着けない時間をかけて当たり前に目の前にある現実。

これはやられた!こんな所があったなんて・・・感動のあまり言葉無く立ち竦みました。
そして次に出てくる感情はこの大自然をもっと見たい知りたい、縦横無尽にこんな山脈を駆け回りたい!そんな感情に囚われまして。
その後本当に山脈を駆け回ることになるのです。
:山を走り始めるってよ
帰宅後、今の自分に足りないのは圧倒的に自身の体力と登山のスキルであることに気が付き、通勤時には下半身強化のためのゆっくりとしたペースでのランニング、休みの日には日帰り登山で登り方、降り方の追及を始めました。
息の上がらない歩き方、大腿四頭筋を使わない登り方、膝にダメージの出ない降り方、走り方・・・それはもう自身の身体と対話をする感覚で、研究すればするほど出来るようになればなるほど次の課題も出てきて、楽しさと探究心を満たす究極の鍛錬の時間が山の時間となりました。
気力体力が充実し目的意識と課題意識がしっかりしている今の方が学生のころよりも身体能力は上なんじゃないかと思うほど身体は変わりました。

日ごとに体力も付き始め、ちょっとした登りの坂道なら走りながら登る、降りの坂道では小刻みなステップでスピードを落とさず降ることが出来るようになり、こうなると俄然楽しくなるわけです。
トレイルランの神が降臨した瞬間ですね!

距離と標高差から日帰りは無理かと思われていた山域に自信を持って突っ込むことが出来る。日程調整やテント泊の準備が無くても日帰りでその山の一番良い時期を逃さず訪問できる。

これはまさしく快感でした。



子供のころ走り回って遊んだ時のように山道の足場の悪い登山道を、木の根を、岩を、息を切らせながら次々と表情の変わる登山道に集中しながら駆け回る快感。

テクニカルな道を疾走した時の達成感や、脳と身体が一体化して起こるアドレナリンとドーパミンの興奮の渦。目から入る情報が直感で身体に伝達する恍惚感。
これを感じてしまったらやめられなくなります。



山登りでの降りなんて特に苦手で、なんで滑って尻モチついたのかすら分からなかった登山者はゆっくり歩くよりも前傾姿勢で駆け降りた方が全然怖くないことに気が付いてしまったのです。
「走ってて辛くないですか?」なんて聞かれたりもしますが、走っている方が楽に感じたりすることも多いのです。

5年前、初めて単独で丹沢に向かったあの日。

夕闇が迫る登山道で足の痛みと不安に耐えながら下山していた登山者は
辛くても登り続けたおかげで
山頂でゆっくりお昼ご飯を食べ、夕方前には下山できる
普通の登山ができるようになり
走り回る体力が付くとともに
バカみたいに長く辛い登山道が続くことから通称「バカ尾根」なんて呼ばれる標高差1200mを誇る丹沢大倉尾根
歩けばコースタイム3時間30分の道を
1時間37分で登ることができるようになりました。(先日タイムを更新しました!)

今では登って降って3時間を切りますので、お昼ご飯は下山して駅前で・・・
一日では行って帰って来られないと思っていた場所や山域に日帰りで行けるようになった経験がトレイルを走る魅力となりそんな疾走感に魅了されて益々、自力で行く為の体力を発揮する身体ともちゃんと向き合うようになりました。
走るって素晴らしい!
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